鉄道の安全性
最近、電車の発車の際の事故が2件、報道された。
いずれも、電車が発車する際、
扉に人が挟まれたままで電車が発車し、
挟まれた人が怪我をした、というもので、
鉄道会社の安全意識に疑問を感じるものである。
が、この、一見似たようなこの2つの事件だが、
個人的に、第一報を聞いた時の主観的感想は異なった。
前者のJRの事故は「とうとう、やったか」であり、
後者の小田急は「え、小田急が?」であった。
これは、えこひいきとかではなく、理由があっての事である。
それにはまず、
電車が駅から発車する時の状況をさらっておく必要がある。
(※都市部の通勤電車に関してです。
地方のワンマン列車などは、また状況が異なりますので)
まず、「以前のJR」、あるいは「国鉄時代」にさかのぼってみる。
発車のベルを鳴らすのは、基本的に車掌の仕事。
駅につくとまず、車掌は電車から降りて、
発車ベルのあるところまで移動する。
都会の場合、ここで特に待つ事無く、
すぐに発車のベルを鳴らす。
鳴らし終わると、車掌は再び車掌室(後部運転室)に戻る。
ドアを開けたまま、各車両のドアの様子を肉眼でみながら、
ドアを開閉するスイッチを「閉」にいれ、ドアを閉める。
もし、誰か挟まれそうになったら、即座に「開」に入れる、
という事である。
ドアが正常にしまると、車両のサイドにあるランプが消える。
それに加え、実際の各ドアの状況を目視で確認した車掌は、
開閉スイッチ付近にあるブザーを鳴らす。
このブザーは最前部の運転室に繋がっていて「ブー」と鳴る。
これは、車掌から運転士への「発車オーライ」の合図、というわけである。
電車は動きだし、車掌は車掌室のドアをバタンと閉めるが、
今度は窓を全開にし、ほぼ半身を乗り出してホームの様子をのぞむ。
誰か、電車に巻き込まれたり、ホームから落ちたりしてないか、
確認するためである。
電車がようやくホームから離れた頃、車掌は窓をしめ、
次の駅の案内放送を車内に流す。
都会で毎日通勤電車に乗っている人でも、
こんな、車掌の一挙手一投足まで観察している、
という方は少ないのではなかろうか。
さて、変わって最近のJRであるが。
山手線や総武線に毎日乗ってらっしゃる方は、
最近の電車が、扉がしまる→即発車する、事に気づかれるであろう。
実は、最新式の電車が入っている通勤電車は、
上記のうち、「車掌がブザーで運転士に安全を伝える」
という段取りが省かれている。
では、運転士はどうやって安全を確認しているか、というと、
運転室に各車両の状況を表示するモニターがあり、
ドアが正常に閉まれば、その状況も表示されるのである。
ドアが閉まる、ちゃんと閉まったと表示される、
すぐにノッチ(アクセルに相当)を入れる、という事である。
もし、何か異常があれば、車掌が見つけて直接ブレーキをかける、
という事なのであろう。
今回の事故では、モニターに異常は示されなかったらしい。
つまり、ベビーカーが挟まれている事に、
運転士は気づかなかったわけである。
近頃の電車は性能がいいので、
ものの数秒で結構なスピードになる。
車掌は、ドアを閉めると、(電車はすぐに動くので)
すぐに車内に入り、振り返って窓をあけ、
外の様子を確認する…、という間に、
多分5mとか10mは余裕で進んでいると思う。
上記の事故は、きっと、このわずか数秒の間に起こったのでは、
と考えている。
「テクノロジーを過信すると、必ず事故が起きる」
と前々から思っていたが、
本当に事故が起きてしまい、残念至極である。
が、この報道に接した時、また同時に、
「小田急のようにしっかりとした安全確認をすれば、
こんな事故は起こらなかったはずだ」と思った。
その小田急も、同様の事故を起こしたのである。
これも、小田急に毎日乗っておられる方じゃないと分からないと思うが
(そう、僕がそうなんですが)、
小田急は、ドアが閉まってから、電車が動き出すまで、
だいたい10秒くらいの間がある。
その間、車掌はホームから各ドアの状況を目視で確認し
(ホームに係員がいる場合は、当然、ホーム側からも確認)、
問題なければ電車に乗り込み、ドアを閉め、
窓を開け、もう一度半身を外に乗り出したくらいのタイミングで
運転室へのブザーを鳴らす。
運転士も、この段階ですぐにノッチをいれず、
「出発」の信号が「進行」になっているかを指差し確認し、
その後初めてブレーキをゆるめ、ノッチを入れる。
その間、なかなか電車は発車しない。
完全に「ダイヤに追われている」JRとは違い、
かなり過密なダイヤの小田急がこういうゆとりある発車確認をしているので、
JRのような事故は起こらない、と思っていたのである。
僕が、第一印象で「え、小田急が?」と思った理由も、
分かってもらえるかと思う。
では、どうするのが安全なのだろう。
解決策は簡単だと思う。
「テクノロジーに過信せず」、「目視にも過信せず」。
しかし、その簡単な事が、なかなか実現できない。
小田急は、まだ比較的古い通勤電車が走っている事もあり、
最新の電車のように、各車両の状況を伝えるモニターが
運転室に備わっていないものも多い。
今回の事故は、きっと、この車両が編成に含まれていたのでは、
と思われる。
仮に、目視で見落としたとしても、
運転室のモニターが異常を伝えてくれれば、
電車を発車させずに待機する事もできるだろう。
今回の事故は、駅ホームに係員がおらず、
車掌も10代の若者だった、と報道されていた。
まだ未熟だったのであろう。
未熟なうちは失敗はつきもの。
しかし、鉄道の安全輸送に失敗は許されない。
誰かが失敗しても、それをカヴァーできるバックアップ体制が必要だ。
旧型車にも最新型並のモニター装備を搭載するか、
あるいは、一鉄道ファンとしてはつらいところではあるが、
旧型車はなるべく早く淘汰して新型車に統一する事で
テクノロジー面での安全性を高める事が必須であろう。
JRは、以前のように、車掌が目視確認する時間を設けるべきだ。
そこまで急いで電車を運行してどうするのだろう?
あの福知山線の事故の教訓は生かされているのだろうか。
にしてもしかし、あの運転室にあるモニター、
どれほどの精度なのであろう。
服やスカートの裾が挟まった事が分からなかった、
とかならともかく、JRの事故ではベビーカーの脚が挟まれたと聞く。
それは、結構な異物とセンサーが感知するべきレベルではなかろうか?
同様のサイズだと、傘の先端、薄めのカバンなども、
センターに感知されず「正常にドアが閉まった」
とモニターに映し出されても不思議ではない。
なんともゾッとする話しである。
鉄道の安全性は、まだまだ鉄壁ではない。
そう思わざるを得ない、2件の事故であった。
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