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2010年3月 5日 (金)

デジカメHD動画進化論

先日、コンデジが「来る」かも、と書きましたが、
一つのポイントとして「HD動画」に注目しておきたいと思います。

ここ半年程で、HD動画対応を謳うデジカメ(一眼レフ含む)が増えました。
しかし、僕の目には「付け焼き刃」に見えます。

多くのデジカメの動画圧縮には「MotionJPEG」というコーデックが用いられています。
うちのPCでも、HDのキャプチャで使っていますが、
利点は「綺麗にエンコードできて、動作が軽い」事です。

うちのマシンは、AMD Athlon64 X2 3800+と少々非力で、
DivXやWMVだと、マシンパワーが追い付かなくてコマ落ちするんですが
MotionJPEGだとそんな事はありません。
それも、CPUパワーの20%程度の負荷なので、かなり余裕です。

デジカメには、まず間違いなく、JPEGの圧縮エンジンが載っています。
つまり、カメラから見れば、「秒間30コマの連写」をするようなものです。
30コマというと超高速な気がしますが、
CASIOのハイスピード連写は秒に60コマの連写、1200コマのムービー、
なんて言ってるくらいで、そう大した数字じゃなさそうです。
1000万画素クラスのJPEGをサクサク処理できる能力はダテではありません。

メーカーにとっては、
既にあるプラットフォームにそれほど手を加えず、
それでいてHD動画に対応させる事が出来るので、
非常に都合のいいものだと思います。

しかし、MotionJPEGには甚大な問題があります。
「ファイルサイズが巨大になる」事です。

多くのデジカメでは、HD対応を謳っていても「フルHD」とは言っていません。
1280*720解像度の、いわゆる720Pで記録します。

もし、1920*1080の、いわゆる1080iの動画をMotionJPEGでエンコードすると、
あっと言う間にギガ単位になります。
ものの数分で、です。
ソースによってかなり変わりますが、
5分で1.5GB前後!にもなってしまいます。

デジカメに使うSDカードって、
普通は512MBとか1GB程度のもんでしょう。
2GBもあれば充分過ぎるなぁ、ってところにきて、
いきなり動画数分で満杯になるようだと、さすがに困ります。

となると、より高圧縮なコーデックを用いる必要に迫られるわけですが、
さすが、ビデオカメラメーカーでもあるSONY、キヤノン、松下は、
既にH264を圧縮コーデックに採用しており、容量の問題を解決しております。
(SONYと松下はAVCHD、キヤノンはMOV)

H264は、再生だけでもマシンパワーが必要なので、
PCでの再生には、必ずしも適しているとは言えませんが、
ブルーレイとの親和性が高い事、
PS3での再生が出来る事など、
家電映像機器での視聴には適している、と言えます。
やはり、映像はテレビで観る、という方も多いでしょうから、
その点でも、AVCHDなどを積極的に採用する事には意味があります。

そういう意味では、先日SONYが発売した
「CyberShot DSC-TX7」は、
現時点での「デジカメでHD動画」の、1つの完成系を示している、とも言えます。

これまで通りの「小型で薄いコンデジ」の体裁はそのまま、
1080iでの記録を、AVCHDを用いる事で実現しており、
かつ、価格も3万円台半ばと、ごく普通の価格帯に収まっております。
裏面照射型CMOSの採用とあいまって、
今日現在、価格.comの売れ筋/注目ランキング1位の2冠を誇っているのも、
全くうなづける事です。

TX7の動画は、「ワイド端の歪曲がヒドイ」とか、「色が変」とか、
マイナスな意見も多く見受けられますが、
そもそも、これで「作品」となるべき動画を撮ろう、
という方はいないはずで、ちょっと気が向いたら撮ってみようという、
ライトな感覚で撮影する事が前提ですから、
この価格、このサイズに収めた事こそが重要なわけです。

ところで、スチルとムービー、
2種類のカメラは、これまで守備範囲がきっちり分かれていました。

コンデジでも動画が撮れるカメラは以前から多くありましたが、
本格的なものへと進化するのを阻害していた要因は、
何と言っても、記録媒体の容量的限界だと思います。

動画を、長時間記録できる媒体は、テープしかありませんでした。
それが、HDDやDVD-Rへと変遷し、今では、大容量のメモリを用いる事が一般化しました。
ここ2年ほどの、メモリ価格下落が理由である事は言うまでもありません。

媒体がメモリになった時点で、
デジカメとビデオカメラの「主戦場」が被ってしまいました。
すると、今まで「まぁ、仕方ないかな」と思っていた、
ビデオカメラの問題点が、いろいろ目についてくるようになりました。

・絞りが菱形である(事が多い)
・ズームは、テレに強いがワイドに弱い。ワイド端は50mmくらい(が多い)
・センサーのサイズが、1/5型など極小である(ものも見られる)
・テープやHDDが入っていないのに、筐体が大きいまま(なものが主流)

全部が全部に当てはまるわけではないので、
ちょっとぼかしながら書いておりますが、
なんとなく、ザクッとした感覚はご理解いただけるのでは、と思います。

ビデオカメラが、HD化など進化をしているように見えつつ、
その中身は、意外と、Hi8やVHS-C、DVなどで記録していた時と、
劇的には変化せずにこんにちまで来てしまったのとは対照的に、
デジカメは、日進月歩で新技術、新機能を搭載してきました。

そして、それぞれが同じ土俵に立ったとき、
もはや、ビデオカメラは周回遅れで挽回不可能になりつつあるのです。

SONYのような「カムコーダーの雄」が、
コンデジにAVCHDを搭載し(しかも、松下のようにLiteなんて下位規格でごまかさず)、
多少の不満はありながらも本格的な動画を撮影できるようになった
(TX7の上位機であるHX5Vの映像が、CMでそのまま使われている程です)事は、
ある意味、自らビデオカメラの終焉を宣言しているようにさえ思えます。

※SONYが年内に発売するミラーレスカメラも、AVCHDに対応する予定らしいので、
Handycamは、ますます斜陽化していくのではないか、と思います。

今後、デジカメ市場は、ビデオカメラ市場までをも巻き込む形で、
更にドラスティックに変革している事が予想されます。

ちなみに、これは全く個人的な意見ですが、
ニコンやペンタックスなどが、
今からAVCHD動画のエンコード技術を磨いても、
SONYや松下に勝つのは難しいと思うので、
例えば、WMVのHDで撮影できますよ、
というような別の「売り」を訴求するといいのでは?、と思います。

WMVは、Vistaや7での再生・編集には親和性が高いので、
PCでの編集や閲覧、PS3での再生してテレビで視聴、
というスタイルを提案できれば、AVCHDとはまた違うニーズを満たせると思います。

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コメント

えまのん様

的確なコメントをありがとうございます。

割と思いつきの行き当たりばったりで書いたエントリなんで、
我ながら散文的だと反省いたしております。

今回は一応、「ビギナー層」「撮れればよい」な人、
を想定してエントリを書いておりました。

そもそもうちには、子ども撮り用にと購入した、
Canonの「Ivis HF100」があるんですが、
それよりむしろ、Nikonのコンデジのオマケ動画機能で、
日常的に撮るほうが多いなぁ、と思った事が、
この問題を考え始めるきっかけでした。

なんでか?、と考えてみると、
電源オンの立ち上がりが遅いとか、
筐体が大きいとか、ワイド端が足りないとか、
いろいろ理由がありそうだな、と考えておりましたら、
そういった問題を、現時点でもっとも解決してくれそうなのは、
SONYのTX7なのかな、という結論に至っている次第です。

エントリでははっきりとは書かなかったですが、
今後、デジカメの動画機能は、
「より本格思考のデジイチ」と、
「より簡単便利なコンデジ」と、
二極化がより進行していくのかな、と思います。

デジイチは、大きいセンサーでの立体的な描写。
もちろん、AF遅いとか、マイクは外部につけるとか、
露出制御が難しいとか、いろいろ不便はあっても、
それを承知で使って作品を撮ろう、という人もいるでしょう。

一方、長々と書いたのは、ビギナー層の話。
TX7を実際触ってみると、
Youtubeを観る感覚で撮り、再生もできます(タッチパネルなので)
あの手軽さでハイビジョンですよ、と言われると、
一般のお客様への訴求力は非常に大きいと実感しました。
もちろん、そういうお客様ならマイクの良し悪しは興味がないはずですから、
音が記録されていればそれで十分、と思うことでしょう。

結局、趣味層もビギナー層もデジカメに取り込まれてしまうとなると、
メーカーとしては、ビデオもデジカメも両方作るよりは、
デジカメに注力する道を選択するようになるんじゃないかな?、
と考えたわけです。

投稿: ごっさん | 2010年3月 7日 (日) 03時02分

MotionJPEGは、そのファイルサイズの巨大さと、メモリカードのフォーマットがFAT32であること、ファイル分割しての記録に未対応であること…などから、連続撮影時間が限られているものが多いです。
デジタル一眼の高級機で、MotionJPEGのHD動画撮影を歌った機種なんて、冗談みたいな連続撮影時間です。


>・センサーのサイズが、1/5型など極小である(ものも見られる)
これは、逆に強みにもなります。
それは「被写界深度が深くなる」ことです。
センサーサイズの大きいデジタル一眼での動画は、それは狙った箇所以外のボケが綺麗にでますが、その狙ったところを外したら大変です。
目標たる被写体はボケ。背景にピントくっきりみたいな事態に。
(そもそも、デジタル一眼での動画はマニュアルフォーカスなことも多い)
LUMIXの一眼でHD動画を撮れるものがありますが、オートフォーカスの追従性は、ハンディカムのそれに大きく劣ります。

また、センサーのサイズが小さいことで、レンズも口径のわりに明るいモノを使用できます。
明るいレンズ=暗所に強い、絞り開放でボケやすい…という利点ですね。
SONYのCX550Vなんぞ、F1.8-3.4のレンズです。しかも広角約30mmからスタート。
TX7はF3.5-4.6。この差は大きい。
昼間の屋外なら差は出にくいですが、夕方以降や薄暗い室内では、TX7の動画はCX550Vの動画に大きく劣ることでしょう。

そしてもう1つ。コンデジ、デジタル一眼での動画がハンディカムに劣る点があります。
それは音声。
搭載するマイクがコンデジ、デジタル一眼では相当に低品質です。
ハンディカム搭載のマイクもお世辞にも高品質とは言い難いですが、それを下回る。
TX7は外付けマイクの端子もありませんので、音質で考えるなら、勝負になりません。


Handycamの斜陽化は、まだまだ先のことでしょう。

投稿: えまのん | 2010年3月 5日 (金) 16時15分

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