PETRI35 F2~「安かろう」と言われようとも?
60年代前後を代表するカメラメーカーと言えば、
「一眼の二強」はニコンとペンタックス、
追随するがなかなか追いつけないキヤノン(70年代から猛追)は、
むしろレンジファインダー機のメーカー(Canonetのようなものを含む)、
小型カメラと言えば、フジに小西六(コニカ)に、オリンパスにペトリに・・・、
って感じになるんじゃないでしょうか?(多分)
「栗林写真工業」は、1919年創業、
日本で最も古くからあるカメラメーカーの1つ。
「ペトリ(Petri)」のブランドで、一眼レフもコンパクトカメラも作ってましたが、
モットーは「ニコンの半額」で、
今のデフレ時代にはもてはやされるであろうところですが、
当時は「安かろう」の烙印を押され、評判はイマイチだったようです。
むしろ、海外で「安いMade in Japanのカメラ」として評判だったようですが、
1ドル=360円時代の終焉と共に勢力が衰え、
1970年代末に倒産してしまいます
(その後も会社は存続し、現在は望遠鏡を作っているらしい)
そのPetriの小型カメラ、「PETRI35 F2」をご紹介します。
去年末くらいだったと思うんですが、
新宿駅前「アルプス堂」のジャンク籠にて捕獲。
症状は「シャッター羽根外れ」の重症で、お値段500円。
分解は比較的順調に進み、
シャッター羽根まであと一息・・・、というところで、
どうしても回らないカニ目にぶちあたり、挫折
(レンズ鏡胴を固定している、後群縁の大きいカニ目)
その後、壊れたままで放置していたんですが、
先日、一念発起して再チャレンジ。
なんとか回らないものかといろいろやってたら、
偶然、先に後群ユニットのネジが揺るんで、外れてくれました。
これで、巨大カニ目を無事に外す事ができ、
ようやく先に進むことが出来ました。
外れていたシャッター羽根は、大きいのが5枚、小さいのが5枚。
写真だと、小さいのが3枚ついています。
右上に、大きいのが2枚見えます。
大きいのと小さいの、どっちを先につけて、
どちらが表か裏か・・・、皆目分からなかったのですが、
幸い、小さいシャッター羽根が1枚だけ外れていなかった事から、
「まずは小さいの」「向きはこちら」「上に重ねるのは大きいの」
「向きは、こっちの方が自然」てな風に類推を重ね、
ちゃんと元通りに組み上げる事が出来ました。
もし分からなければ、コパルシャッターの分解写真を、
ネット上で必死に探し回る必要がありましたが、事なきを得ました。
シャッター稼働部に注油したり、
固まりまくったヘリコイドのグリスを落としたり・・・
そう、このグリスが、実にヒドイ有様で、
ベンジンにつけておくと、こんなえげつない事に↓
ドロンドロンのグチョングチョンですよ。
翌日、ベンジンが干上がった後に、
またまたグリスが凝り固まり、底にべっとり。
ティッシュで取れなくなったので、
再度ベンジンを入れて溶かしてから拭き取る、
という本末転倒な事をしてしまいました。
いやしかし、ベンジンは偉大だなぁ、と感心した次第。
ペトリは、「安かろう」と言われていただけあって、
確かに、部品の立て付けが悪かったです。
レンズ鏡胴を固定する時も、
角度が少しでもずれると、バルブが開きっぱなしにならなかったり、
チャージレバー巻き上げてもシャッターがチャージされなかったり。
かなりキワドイ感じで組み上げていきました。
また、シャッターカウントを刻んでいく部分ですが、
この、真ん中のレバーが左右に動くんですが、
あまりに固くて、バネの力で動いてくれない。
油さしても全く関係なし。
結局、このレバーをペンチでつまみ、
グイグイと折り曲げて、スムーズに動く形に成型しました。
一体、何がおかしくなってこうなったのか、全く不明・・・
ニコンやキヤノンのカメラをばらす時とは、
次元の異なる問題に直面して、それはそれで楽しかったですが、
なんとか無事に動いてくれるようになりました。パチパチ。
ただ、シャッターが、規定の速度より遅く動作しているっぽく、
1秒は、確実に2秒近く(約1.7秒)、
1/2秒のはずが0.7秒くらいなど、
特に低速では明らかに遅くなっている様子。
ガバナーの調整が必要?いいや、めんどくさい(汗
ネガ撮りなら、少々オーバーになる程度ならラチチュードの範囲だろう、
と思うので、そのままにしてあります。
また、距離計は、ハーフミラー部分が薄くなっており、
測距窓方面からの画が見にくくなっておりました。
車用のハーフミラーを貼るのが常套手段ですが、
巨大なハーフミラーのシールから、数mm程度だけ取るなんて、
あまりに不経済すぎるので却下。
ケータイの覗き見防止シールが役立つ、という情報もあり、
数種買ってみましたが、いまいちしっくりこない・・・
どうしようかなぁ、と思いながら、
その、使えなかったシールをジロジロ見てたら、
アイデアが浮かんできました。
なんで見にくいかと言うと、
測距窓からの光の方が、メインの窓からの光より弱いからです。
って事は、相対的に、メインのファインダーの光を弱くすれば、
見えるようになるんじゃなかろうか・・・?
で、グレーがかった覗き見防止シールを、
ファインダーに貼ってみた(一番上写真参照)ところ・・・
お~、見える見える(笑)
室内でも充分に見えるくらいで、外では全く問題なし。
我ながらコロンブス的発想がよく思い浮かんだもんだ、
と自画自賛(臭いものに蓋をしているだけ、という話しも・・・?)
さて、試写してみた感じですが、こんな画が撮れます。
PETRI35 F2
Orikkor 4.5cm F2 A.C.
Kodak Gold 100
このカメラの特徴は、
1950年代末という時代にありながら、
開放がF2という明るいレンズを搭載している事。
後に、「F1点台」の競争が始まり、
各社、コンパクトカメラにF1.4だのF1.7だのと、
無用に明るいレンズを載せるようになりますが、
ある意味、その先駆けと言っていいのかもしれません。
レンズ構成は不明ですが、
分解清掃している感じだと、
シャッター、絞りを挟んで前後に2,3枚ずつのレンズがあり、
また、真ん中のシャッターを挟む前後が曲率の高いレンズである事から、
この時代にしてダブルガウスタイプのレンズなのではないか、
と思われます。安物を標榜している割に、贅沢な作りです。
写りも確かに、「50mm標準レンズ」って感じのボケ具合、立体感です。
これが、確かF2.8くらいで撮ったと思うんですが、
なだらかで柔らかい、綺麗なボケをしていると思います。
また、周辺部まで均質な描写をしている、というのがスゴイです。
小型カメラのレンズなら、少々周辺の像が甘かったり流れていても、
誰も文句を言わないと思いますが、
イメージサークル内の描写にはしっかりと責任を持って設計しているようです。
無限チェック撮影したコマの中から、一部分を等倍で切り出し。
1段絞ってF2.8で撮ってますが、ちょっと甘めかな?、って感じです。
事前に、シャッターをバルブであけて、
磨りガラス(正確には透明アクリル板だけど)とルーペをあてて、
∞にピンが来るかを確かめておりましたが、
特にズレてる様子もなく、また、どっちにしても修正方法がよく分からん(汗)ので、
まぁ、こんなもんだろう、と納得しております。
それに、決して、ピンぼけしてぼやけてる、って感じではなく、
シャープさがもう一歩、ってところだと思いますし、
それに、ペトリのレンズでビシバシにシャープ、
なんて事があると、それはそれで似合わない気もする(笑)
露出計がなく、シャッター速もあやしい。
ファインダーは微妙に暗いし、写りも最高に良いわけではない・・・
それでも、この明るさのレンズでありながら本体は割と小さく、
100程度のフィルムで絞り開けぎみで撮れば、
人物撮り(子供撮り)の背景ボカシ写真がキレイに撮れる、
個人的には「いいな、これ」って思えるカメラです。
そうそう、最近マイブーム?の「夜景撮り」に丁度いいかもしれません。
この写り、白黒だと「いい味」が出そう・・・
本体に「COLOR」って書いてある気もしますが(笑)
一度は、完全に「死んだ」カメラの復活ですから、
「安かろう」などと言わず、敬意を持って、大事に使おうと思っております。
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