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2020年5月

2020年5月29日 (金)

ノベライズ「言の葉の庭」の、目に見えるような景色

180522_13
Canon P (Poupulaire)
LZOS Jupiter-12 35mm F2.8
Fotokemika efke KB25
2018年5月22日

「君の名は。」で新海誠の世界に一気に引きずり込まれてから、
過去の作品も一通り目を通してみた。
もちろん、一目見て全てに惚れ込んだ「君の名は。」も好きだし、
青春の甘酸っぱさや男の弱さをさらけ出す「秒速5センチメートル」も好きだけど、
今の所、新海誠作品で一番好きなのは「言の葉の庭」だと言っておきたい。
(本文改訂時点で既に「天気の子」も観たけど、
それでもやはり、「言の葉の庭」は新海誠作品で一番好きな映画だ。)

靴職人を目指す高校生タカオと、
同じ高校で古典の教師をしているものの、
心に傷を負い学校に行くことの出来ないユキノ。
雨降る日の公園の東屋でしか出会わない、
そんな二人の淡い恋の物語…

現実世界では許され無さそうな二人の関係も、
新海誠が描く、果たして現実なのか空想なのか、
分からなくなるような映像世界の中だと純粋で汚れ無いものに思え、
そしてなぜか自分自身の過去に戻ったような感覚さえ覚えるのが不思議でもある。
そんな経験はなかったはずだし、理想も持ち合わせてなかった…はず、なんだけど。

映画は僅か45分ほどの短編だけど、新海誠本人のノベライズ版は、
映画ではワンカットしか出てこないような端役のキャラも含めて詳細に語られていて、
タカオとユキノの世界で起きている出来事を事細かく描写している。
アニメを観てからノベライズを読むと世界が広がるし、
ノベライズを読んでからアニメを観ると、
アニメにはなっていない部分も脳内で勝手にアニメ化されて再生される。
「言の葉の庭」を少しでも好きになった人は、
ノベライズ版にも目を通しておく方が絶対にいい。

例えば、映画では一切触れられていない中学生時代のタカオの回想シーンも、
小説版では細かく描写されている。
特に印象的なのは序盤、年上の女友達だったミホと二人で明治神宮へ行く場面、
代々木のドコモビルが見える、と書かれている一文がある。

これを読んだ時、まさに頭の中には、この写真の光景が蘇ってきた。
あぁ、あの場所でタカオとミホは…と。
アニメの中で現実世界との境目を曖昧にする新海誠だけど、
まさか文字だけのノベライズでも、
まるで目の前に本当の景色が見えているか、あるいはアニメを観ているのか、
と勘違いを起こしそうな程、はっきりとした情景を描く事に成功している。

都会の喧噪を離れ、木々に囲まれ鳥のさえずりの中で時が止まったような明治神宮…の彼方に、
実に異質にそびえ立つドコモの電波塔。
ここは、参道から本殿に辿り着き、その抜けた先という立地。
現実を忘れて全てが浄化されたような気持ちでこの場所に辿り着いた時、
ふいにあのビルが姿を現すと、
強制的に現実世界に引き戻されてしまうような戸惑いを覚える。

現実と非現実が混ざり合わずに存在しているこの場所は、
リアルとアニメの境目を飛び越えていくような錯覚を覚える新海誠作品の、
特徴そのものが具現化された場所であるように思えなくも無い。

そして、現実の東京の(しかも新宿近辺の)景色をうまく作品に盛り込む新海誠の、
映画にはなってない、だけど非常に印象に残るそんな一コマ。
頭の中ではかなり明確に描写されたワンシーンを、
レンズ越しに写真にしたくなり、この場所までやってきたのでした。

※2年前、facebookに投稿していた記事を加筆修正し、転載しました。

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2020年5月27日 (水)

「氷の世界」と「秒速5センチメートル」

180522_11
Canon P (Poupulaire)
LZOS Jupiter-12 35mm F2.8
Fotokemika efke KB25
小田急 参宮橋-代々木八幡間
2018年5月22日

新海誠の初期の名作「秒速5センチメートル」の物語は、
小田急参宮橋駅近くの踏切で始まり、17年後の同じ踏切で終わる。

「秒速」の世界では、この踏切の元に立派な桜の木があって、
「花びらの落ちる速度は秒速5センチメートル」と、
まだ小学生だったアカリがタカキに教える。
17年後、タカキは同じ踏切でアカリ(と思われる女性)とすれ違い、振り返る。
だけど、通り過ぎた電車の向こうに、人影はない。

アニメを観て、そしてノベライズも読み通した後、
ひょっとして「秒速5センチメートル」という表題には、
「サクラ、チル」の意味にも掛けられていたんだろうか、と想像された。
だとしたら、物語の始まりから結末は暗示されていたのかもしれない。

ところで、踏切と通り過ぎる電車、そして恋人、というシチュエーションから、
自然と、井上陽水のアルバム「氷の世界」の事が思い出された。

1曲目「あかずの踏切」では恋人に会いたいのに踏切があかず、
じらされ、早く早くと前のめりな気持ちが溢れ出ているようなのに、
6曲目の「白い一日」(作詞は小椋桂)では対照的に、
遮断機があがって振り向いた君はもうオトナの顔をしている、
と悲しげで悲壮感を漂わせて歌う。
まるで、第1話(中1)のタカキと、第3話(オトナ)のタカキを見比べるかのようだ。

そして、3曲目の「帰れない二人」(忌野清志郎との合作)では、
街は眠りにつき、星も帰ろうとしているのに、
手と手のぬくもりで互いの気持ちを感じる二人が歌われている。
これも、雪で帰れなくなったタカキとアカリが、
雪明かりに浮かぶサクラの木の下で口づけを交わし、
互いのぬくもりで一晩を共にするシーンが不思議とオーバーラップする。

作られた時代もストーリー性も全く異なる「秒速」と「氷の世界」。
きっと、新海監督は「氷の世界」から微塵もインスピレーションを受けてないだろう、
と想像されるけど、おかしなもので、
「氷の世界」の歌詞カードを読みながら「秒速」の事を考えると、
いろいろな場面が脳内で勝手にシンクロし、思いがけず世界が広がっていくのが面白い。

アニメを観てノベライズを読んだら、
居ても立っても居られなくなり、カメラを持ってあの踏切に行ってみた。
とても新海誠の色彩感を再現する事は出来ないだろうからと思い、
白黒フィルムをカメラに詰めた。失われた色彩は脳内で蘇らせる事にして。

目の前の電車が通り過ぎた時、
遮断機の向こうにあの人が立っているんじゃなかろうか…、
そんなセンチメンタルな感情を抱くことを少なからず期待していたけれど、
いざ現場に立ってみるとそんな事を考える隙もなく、
ただ「ちゃんと頭がフレームに入るように」と、
レリーズを切る瞬間の指先にしか神経を集中する事が出来なかった。

得てして、写真を撮るとはそういう事だったりする。

※2年前、facebookに投稿していた記事を加筆修正し、転載しました。

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2020年5月17日 (日)

【懐かし写真】久大本線の12系

990322_03
PENTAX Z-1
Konica JX400
久大本線
1999年3月22日
※デュープ機材
FUJIFILM X-T10
Canon New FD50mm F3.5 Macro

大学3年生から4年生への変わり目の春休み、
所用で九州へ旅行に行ったついでに、
引退が近かった12系普通列車を撮影に久大本線に行きました。

どこで撮ったのか、アルバムにはメモがあったかもしれませんが、
ネガには何も記録が入っておらず、
Googleマップで探してみましたが、果たしてどこで撮ったのやら…。
そう内陸部までは行ってない気がするんですが。

国鉄からJRに移行した際は、
まだ各地に12系や50系の客車列車が残っていました。
近場だと高徳線の早朝・深夜の50系の各停がありましたし、
播但線に乗って親戚の家に行くとき、
12系の各停に乗った事もあります。

20世紀末になり、この不効率な列車は淘汰されていき、
Wikipediaによると、この久大本線が「通常運用では最後の客レ」だったようです。

最前部の機関車が、動力のない客車を引っ張っていく。
電車にはない魅力やロマンがあるように感じるのは、
果たして何故なんでしょうか。

せっかくの久大本線なので、「ゆふいんの森」も撮影。
当時から、九州の列車はオシャレに出来ています。
JR東○本とはえらい違い(笑)

990322_19
PENTAX Z-1
Konica JX400
久大本線
1999年3月22日
※デュープ機材
FUJIFILM X-T10
Canon New FD50mm F3.5 Macro

四国では2000系増備により早々に活躍の場が無くなった185系も、
ステキな外装に身なりを変えて、九州の地で頑張ってました。

990322_23
PENTAX Z-1
Konica JX400
久大本線
1999年3月22日
※デュープ機材
FUJIFILM X-T10
Canon New FD50mm F3.5 Macro

ここ最近、フィルムの取り込みはスキャナーで行ってましたが、
久しぶりにデジタルでのデュープを行ったら、
やはりこっちの方がいい仕上がりになりそうだ、
と思ったので、これからはデュープで写真をデジタライズしていく事にします。
以前はニコンD7000が常用機でしたが、
これからはフジX-T10を使用していきます。
(レンズは引き続き「神マクロ」だと思っているFDレンズで)

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2020年5月16日 (土)

【懐かし写真】多摩川を渡る103系

020902_01_20200516142701
Canon EOS5
EF35-70mm F3.5-4.5
Konica Centuria400
中央線 立川-日野間
2002年9月2日
※デュープ機材
FUJIFILM X-T10
Canon New FD50mm F3.5 Macro

就職のために上京したのは2002年4月。
最初に入社した会社は少々特殊な分野?だった事もあり、
なかなか慣れず、帰れるのが午前様な事も珍しくありませんでした。
なので、電車の写真を撮りに行こう、
という余裕がほとんど無い日々を過ごしておりました。

この日は珍しく中央線まで足を伸ばしています。
なんで中央線だったのかはよく覚えていませんが、
同じネガに165系(169系?)が写っているので、
何か団臨でも走る、という情報を知って撮りに行ったのかもしれません。

今回紹介するのは、それとは全く違うものです。
多摩川を渡るオレンジ色の電車。
でもよく見ると、顔が黒くありませんし、
屋根上のベンチレータも四角くありません。
そう、これは103系。
「あれ、中央線の103系は早くに引退したはずでは?」

当時、まだ武蔵野線にはオレンジの103系が走っていました。
そして、まだ所属も豊田電車区だった頃です。
つまり、これは豊田電車区へ帰投する回送列車。

ネガの一コマ目でしたので、
多分、急いで撮ったんでしょう、
実際はもっと斜めに傾いてましたし、
大して雲も出てないのに盛大に空を入れる縦長の構図なので、
8両編成の7両までしか写っていません。
(そもそも「何でも縦長に撮る病」の持ち主である事は、
先日も書いたところではありますが)

せっかくなら103系とよく分かるように、と思い、
横長にトリミングしてみました。
21世紀に入ってから撮った写真ですが、
どことなく「懐かしの昭和」っぽい感じがします。

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2020年5月11日 (月)

【懐かし写真】常磐線を迂回する「北斗星」

Dscn0350
Nikon COOLPIX880
1/500秒 F4.2 (ISO400)
JR常磐線 馬橋駅
2003年7月22日

前回、馬橋駅で撮影したE501系の写真をアップしましたが、
その2年程前、同じ馬橋駅で珍しい写真を撮影していた事を思い出しました。
とっくにブログに載せていたように思いましたが、
検索しても出てこないので、初出となります。

この日も、主に103系を撮ろうと思って常磐線で撮影しておりました。
撮影したニコンのコンデジ「COOLPIX880」は、
この数日前にアキバで購入したばかりの中古品でした。
デジカメとしては2代目のカメラでした
(初めて買ったのはオリンパスの「C-1 Zoom」でしたが、
大して写真を撮らないうちに壊れてしまいました。)

この頃は西新井に住んでいたので、
常磐線はよく撮影に行ったものです。
103系が風前の灯火だったので、
もっとも身近な「撮っておきたい」被写体でした。

ここからは記憶が曖昧なのですが、
この撮影をしている時に、
この線路を「北斗星」が走ってくる事に気づいていたのか、
あるいは走って来たのを見て「えっ!?」と思って慌てて撮影したのか…。
気づいていたとすると、構内放送等で「東北線が不通」の一報を知り、
ならばひょっとして常磐線を迂回してくるのか、
と思って待ち構えていたかもしれません。

いずれにしても、そう度々あるような機会でもなく、
しかも、まだ買ったばかりで不慣れなカメラで、
気合い一発絶対に外すまい!と全身全霊でシャッターを切った覚えあります。
おかげで、割と絶妙なタイミングと構図で撮影する事ができました。
(しかも、電源車はマニ50から改造されたマニ24-500番代!
これもなかなか貴重な存在。)

「C-1 Zoom」をあまり使わなかった理由は、
コンデジは鉄道撮影に使えるものじゃないな、
という感覚を抱いていた事にあります。
一報、「COOLPIX880」は、不満なところはあったものの、
マニュアルで撮影できる項目が多かったり、
非圧縮(tiff)で撮影できたり、撮影データを後から取得できるなど、
割と痒いところまで手が届くカメラでしたので、
「これから充分使えるな」と思わせられるだけのものでした。
この頃は、まだメインカメラはEOS5(5Dではない)でしたが、
そろそろデジタルへ移行してもいいかも、
と思わせる最初の一歩となったカメラである事は確かです。

※「北斗星」の記憶ばかりが脳裏にありましたが、
同じ日の写真を見ると、EF65-500やオール鋼鉄の415系(403系?)など、
垂涎の懐かしい写真もありました。

Dscn0322

Dscn0343

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2020年5月 8日 (金)

【懐かし写真】常磐線E501系

Imgp0527_e501
PENTAX *ist Ds
SMC PENTAX 400mm F5.6(?)
JR常磐線 馬橋駅
2005年5月29日

初めてのデジタル一眼レフとしてペンタックスの「*ist Ds」を購入したのは、
2005年2月の話しですので、既に15年も前の話しとなりました
(ちなみに、ほぼ動態保存機扱いですが、今も現役で稼働できる状態です)。

当時購入をしたいきさつは明確で、
そろそろ都心の103系が全廃しそうなので撮っておきたい、と思ったからです。
当時、兄のEOS 10D(だったかな?)を触らせてもらったとき、
こりゃまだフィルム一眼レフに代わるには早いな、と感じ導入を見送っていましたが、
ある日(今は無き)有楽町ソフマップで*istDsを触った時に
「あ、これだ。これなら撮れる」と直感し、導入を決心しました
(しかし、その場では買わず、ネットで安いのを見つけて購入しました。
既にそんな事が当たり前にできる世の中になっておりましたので)

以来、引退まで足繁く常磐線に通って103系の撮影を続けてきましたが、
主目的の写真以外は、当時は「アウト・オブ・眼中」。
でもそこには、やはり既に引退した415系や203系、
常磐線上野口から撤退した651系やE501系など、
様々な車両が写っていたわけです。

その中から、今回はE501系を写したワンカットを。

レンズは、この圧縮率からするとSMCの400mmだと思いますが、
ボケ具合からするとSMC Takumarの300mmな気もします。
メモを取ってなかったので判然としません。
もう一度、同じ場所に立ってみれば分かる話ですが、
今、馬橋で何かを撮る目的があるか、と言われると…

E501系は、209系の交直流版として誕生したヤカン電車なので、
鋼鉄車両好き?としては本来好みには類さない車両のはずですが、
あの独特のジーメンス製モーターのサウンドも相まってか、
不思議と親近感を覚えていました。
なので、415系などの合間に走ってくると、
ちょっと嬉しい気持ちでシャッターを切ったものです。

その後、常磐線上野口はE531系で運用が統一されたため、
関東で見掛ける事がなくなってしまったのは残念な事です。
(しかも、あのジーメンス製サイリスタも換装されたそうで…)

E501系、あまりいい写真撮れてなかったなぁ、と思ってたんですが、
改めて発掘したら案外ちゃんと撮ってあるもので。
付属編成を従えた堂々の15連です。

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2020年5月 6日 (水)

【懐かし写真】八高線、キハ30・キハ38

960304_06
Canon EOS5
EF100-300mm F4.5-5.6 USM
Konica LV400
JR八高線 北八王子-小宮間
1996年3月4日

高校を卒業した直後に東京へ撮影旅行に行った際のネガから、
電化直前の八高線の写真を発掘しました。
キハ30とキハ38の4連です。

キハ30系は、一応徳島にも配属されていましたが、
たったの2両で、かつ、JR化後すぐに廃車となりましたので、
個人的には「割と珍しい気動車」の一つでした。
13年前のエントリーで
既に休車となった四国色キハ30の事を取り上げています。)

ロングシート、かつ両開き扉のキハ30は、
田舎育ちの少年には「都会の列車」風な存在として見えて、
どこか憧れのような気持ちを持っていたものです。

八高線電化で引退する、というこのタイミングで、
実際撮影に出向いていたのも、
そんな気持ちの表れだったのかもしれません。

八高線を追われたキハ30の一部とキハ38は、
その後久留里線に転属し、余生を全うしました。
ひょっとしたら、上の写真に写っているキハ30やキハ38も、
実は久留里線で再会していたかもしれません。

Imgp1169_kururi
PENTAX *ist Ds
SMC PENTAX-M 135mm F3.5
JR久留里線 下郡-小櫃間
2010年1月4日

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